公共施設の名前を支える力 ~東京都あきる野市のネーミングライツ事例から考える「名を貸す価値」

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あきる野ルピアとあきる野市民球場に対して、愛称付与の提案が団体等からあったことから、両施設のネーミングライツ・パートナーを募集し、次のとおり決定しましたhttps://www.city.akiruno.tokyo.jp/0000019335.html

はじめに:なぜ「名前」を付けるのか?

「施設に名前を付ける」――これだけ聞くと、「単なる広告」か「企業名を誇示するもの」に見えるかもしれません。しかし、ネーミングライツ(命名権)は、広告以上の価値をもつ仕組みで、公共施設の運営や地域とのつながりを生み出す手段になりえます。

2025年3月、あきる野市は市内の公共施設についてネーミングライツ・パートナーを公募し、施設への愛称と命名パートナーを決定しました。あきる野市 この事例を起点に、ネーミングライツの背景・効果・注意点を整理しつつ、「あなた(企業・団体)にも可能性はあるかもしれない」という視点をご紹介します。


事例紹介:あきる野市のネーミングライツ決定

まず、あきる野市の事例を具体的に押さえておきましょう。あきる野市

対象施設愛称(ネーミングライツ名)パートナー契約期間年額命名権料
あきる野ルピアトラストルピア株式会社トラスト令和7年10月1日 ~ 令和12年9月30日(5年間)100万円
あきる野市民球場内田電気商会グリーンフィールド草花有限会社内田電気商会同上(5年間)100万円

※「愛称」として使われる名前は、看板・市のウェブサイトなどで表示されますが、条例で定められた正式名称を変更するわけではありません(あくまで通称扱い)。あきる野市

このように、あきる野市は2施設でネーミングライツを導入し、それぞれ年間100万円で契約しました。これらの命名料は、施設の管理運営費等に使う見込みです。あきる野市

あきる野市は、今後も随時ネーミングライツ・パートナーを募集していく予定だと明記しています。あきる野市


背景:なぜ自治体はネーミングライツに動くのか?

なぜ最近、地方自治体や公共団体が施設のネーミングライツ導入に踏み切るケースが増えているのでしょうか?いくつかの背景・理由を挙げてみます。

  1. 財源の確保・運営負担の軽減
     公共施設の維持管理には、老朽化対策、清掃、設備更新、電気代など、継続的なコストがかかります。税収や補助金だけでは賄いきれない場合、追加の収入源が求められます。ネーミングライツは、施設に名前を付ける代価として自治体が収入を得る手段になります。
  2. 施設の魅力向上と認知拡大
     施設に独自の愛称が付くと、住民にとって呼びやすく親しみのある存在になります。同時に、企業名を冠した名称が看板や案内表示、イベント告知などで露出することで、施設そのものの認知も広がり得ます。結果的に、来訪者数や利用率のアップも期待できます。
  3. 地域との結びつきづくり
     命名権を提供することで、地元企業や団体と行政が協働する関係を築けます。企業が「地域の一員として公共を支える」という姿勢を見せること自体が、地域社会とのつながりを強化する手段になります。「応援する」側・「支える」側という関係性が、愛称という形で可視化されます。
  4. 広告・広報手段としての役割
     企業側にとっては、広告塔的な存在となる施設に自社名を載せることで、認知向上・ブランド力強化につながります。ただし、単なる広告投資だけでなく、「地域支援」「公共貢献」といったイメージとセットで使われることが重要です。
  5. 民間資金の参画・公共と民間の協働促進
     公共施設は、行政だけで運営するよりも、民間の知見や資源を取り込むことで、より効率的で利用者視点の運営がなされやすくなります。ネーミングライツは、公共施設と民間企業をつなぐ「協働」の入り口になり得ます。

ネーミングライツによる効果(命名のもたらす価値)

命名権を導入したからといって、すぐに劇的な成果が出るわけではありません。ただ、適切な設計と運用で、下記のような効果が期待できます。

1. 認知とブランド力の向上

施設名に企業名が入ることで、施設へ行くたびに会社名を目にする機会が増えます。とくに来訪者・利用者が多い施設であれば、その効果は大きくなります。イベントが開催されれば、チラシ、ポスター、Webでの告知にも企業名が必ず露出します。

2. イメージアップ・信頼性の強化

地域貢献という側面が強調できるため、企業・団体は「地域のために尽力する存在」というポジティブなイメージを持ってもらいやすくなります。地域住民にとっては、「あの会社はこの施設を支援している」という親近感や信頼感につながることもあります。

3. 施設利用率・来訪者増加への波及

施設の名前を新たに冠することで、リニューアル感や話題性を作りやすくなります。ネーミング決定時や命名式などの広報機会を契機に、注目を集めることが可能です。それが施設利用のピークタイミングになれば、波及効果が見込めます。

4. 運営維持・改修費用などの補填

得られた命名権料を施設の維持管理費や改修費に充てられれば、自治体の財政的負担を軽くできます。場合によっては、利用者サービスの拡充(例えば、トイレ改修、施設内案内改善、照明設備強化など)に投資する手助けにもなります。

5. 地域とのアライアンス構築

ネーミングライツ契約を通じて、地域企業・商店・住民との関係が生まれやすくなります。協賛イベントや地域振興事業とのタイアップなど、命名パートナーと行政・住民が一緒になって地域を盛り上げる機会が生まれやすくなります。


注意すべき点・リスク

ただし、ネーミングライツを導入する際には、慎重な設計やルールづくりが不可欠です。以下は注意点です。

  • 名称のふさわしさ・違和感の排除
     愛称が施設イメージとそぐわない、紛らわしい、長過ぎるものになると、利用者に受け入れられない可能性があります。あきる野市の例でも、愛称はあくまで「通称的に使われる名称」という位置づけです。あきる野市
  • 契約期限と見直し制度
     契約期間を適度に設定し、途中で見直しや更新の機会を設けないと、名称が陳腐化したり、トラブルが発生したりする恐れがあります。
  • 契約解除・責任所在の明確化
     パートナー企業が倒産した、倫理的問題が起きたなど、困難な状況が発生する可能性もあります。その際に契約解除できる条項や責任範囲を明確に定めておく必要があります。
  • 地域住民の理解・抵抗
     「公の施設が企業名になるなんておかしい」「広告過剰になるのでは?」という反発意見も出る可能性があります。導入段階で住民説明や意見交換を丁寧に行うことが望まれます。
  • 露出とのバランス
     施設表示、看板、Web、チラシ、パンフレットなど露出範囲を契約段階で明示しておかないと、パートナーと行政との期待ズレが起きることがあります。

他地域の事例にも学ぶ:三重県津市・静岡県富士市など

ネーミングライツを導入している他自治体の事例も参考になります。

  • 津市(三重県)
     津市では、複数の公共施設(産業・スポーツセンター、球場、公園、歩道橋など)を対象に命名権を募集しています。希望価格などが施設ごとに設定されており、年額300万円、100万円など複数の帯域があります。ネーミングライツ協会 特筆すべきは、対象施設の規模や性格に応じて募集額を変えるなど、柔軟な設計をしている点です。広告効果だけでなく、地域貢献・施設維持支援というバランスを狙っています。さらに、「親しみやすい名称」「施設のイメージを損なわない名付け」が要件になっていることも見逃せません。ネーミンライツ協会
  • 富士市(静岡県)
     富士市総合体育館は、令和7年4月の供用開始に合わせてネーミングライツパートナーを募集しています。契約期間は5年、希望額は年額500万円以上。名称には「ふじ」「アリーナ」を含める条件を設けるなど、地域性とブランド性を両立させようという設計になっています。ネーミングライツ協会 富士市の場合、スポーツ・イベント拠点となる施設という性格を踏まえ、名称の条件を工夫して地域との一体感を図ろうという姿勢が見られます。ネーミングライツ協会

これらの事例を見ると、ネーミングライツは単に高額に売る、という線引きではなく、公共性・地域性・施設性格・住民とのバランスを反映させる「名前の設計力」が問われることがわかります。


「命名権購入」をあなたが検討するなら:ポイントとステップ

では、もしあなた(企業・団体)がネーミングライツを買ってみようかな、と考えるなら、どのような視点で動けばよいでしょうか。第三者視点を保ちつつ、以下のステップ・検討ポイントを提案します。

  1. 対象施設を探す/行政募集をチェックする
     多くの自治体ではネーミングライツ募集情報を公開しています。まずは近隣自治体や市区町村のウェブサイトで募集情報を探してみましょう。あきる野市でも「随時募集」の旨を公表しています。あきる野市
  2. 施設特性と広告効果の見込みを分析する
     対象施設が、人が集まる場所かどうか、駅近かどうか、イベント開催頻度が高いかどうか、施設の利用率や来訪者層はどうか――これらを見て、「この施設で自社名を載せて意味があるか」を仮定してみます。
  3. 地域性・親和性のマッチング
     企業の事業内容やブランドイメージが、地域や施設と合っているかどうかは重要です。極端な業態や地域感覚とズレるネーミングは、逆効果になることもあります。「地域とのつながりを感じてもらえる名称」にすることが望ましいでしょう。
  4. 契約条件(期間、解除規定、表示範囲等)の確認
     契約期間、更新・見直し条項、契約解除条件、名称使用範囲(看板、Web、印刷物、館内表記等)を細かく確認・交渉できるかどうかを事前にチェックすべきです。
  5. 住民理解・関係者調整を図る
     地元住民、利用者、自治会、商店街などへの説明や意見交換を行うことで、反発や摩擦を避けやすくなります。名称案段階での意見聴取を取り入れておくと、定着性が高まりやすいです。
  6. 長期視点でのブランド設計をする
     5年、10年先を見据えて、名称の耐久性や時代変化対応性を考慮しましょう。古びた印象を与えないようなネーミングは、長期間価値を保つ設計が鍵になります。
  7. PR・広報戦略を組む
     命名権取得後は、命名式・記者発表・地域ニュース媒体・Web告知などを駆使して話題化を図ると良いでしょう。単なる名前貸しで終わらせず、地域との接点を作ることが効果を高めます。

締めくくりに――“名を貸す”ことの意味を考える

ネーミングライツは単なる“看板の命名”にとどまりません。名前を貸すことで、公共施設と企業(団体)、地域住民を結びつける“協働の象徴”ともなり得ます。「応援される施設」「地域と共に歩む企業」というストーリーをつくる、言わば名前を通じた架け橋です。

あきる野市の事例では、施設への愛称導入とパートナー選定が行われ、5年間で年間100万円という契約がなされました。あきる野市 この規模感でも、地域に根ざした企業や団体にとっては十分に価値ある投資になり得るでしょう。

もし、あなたの事業や団体が「地域とともにありたい」「公共性と結びついたブランドをつくりたい」「ただ広告以上の意味をもたせたい」と考えているなら、ネーミングライツという選択肢をぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。行政側のルール設計・入札条件・地域調整などハードルもありますが、適切に設計すれば双方にとって利益ある関係を築ける可能性は大いにあります。

「ただの広告」ではなく、「名前を通じて施設と地域を支える存在になる」――そんな視点をもって、ネーミングライツの世界を眺めてみるのも面白いかもしれません。

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