※アイキャッチ画像はイメージです。
埼玉県では、県立博物館等8館及び県営公園2カ所について、ネーミングライツ事業に係る愛称の命名権者(ネーミングライツパートナー)を募集します。https://www.pref.saitama.lg.jp/f2216/news/page/news2025092501.html
まず、ネーミングライツ(命名権)とは、ある施設や場所に「名前(愛称や通称)」を付ける権利を、企業や団体が買う仕組みのことです。たとえば「○○(企業名)博物館」「△△(会社名)公園」のように、スポンサー名を冠する形です。
この方式は、単なる広告ではなく、地域とのつながりや施設の利用価値を高めるという側面を併せ持っています。企業や団体が「地域を応援したい」「公共施設の維持運営を支えたい」と考える際、一つの選択肢として注目されている手法です。
埼玉県の事例:県立博物館など10カ所でネーミングライツパートナーを募集
2025年9月、埼玉県は、県立博物館等8館および県営公園2か所について、ネーミングライツ・パートナー(命名権者)を募集することを発表しました。 埼玉県公式サイト
主なポイントを整理すると以下のとおりです。
対象施設
募集対象となるのは、歴史・文化・自然などを扱う博物館さらには県営公園で、具体的には以下のような施設です(例)
- 歴史と民俗の博物館 講堂(さいたま市大宮区)
- さきたま史跡の博物館 さきたま体験工房(行田市)
- 近代美術館 サンクガーデン(さいたま市浦和区)
- 北浦和公園(さいたま市浦和区)
- さきたま古墳公園(行田市)
- …ほか博物館・公園合計10カ所
契約期間と料金
- 契約期間は施設により異なり、たとえば8〜10年程度の長期契約が想定されています。
- 年間契約料(税別)は、一般の博物館類では年50万円、規模の大きな公園などでは年100万円と設定されています。
このように、たいへん多くの公共施設を対象として、比較的リーズナブルな金額でネーミングライツを取得できる可能性があるという点が特徴です。
ネーミングライツの背景・狙い
このような自治体による命名権募集には、以下のような背景と意義があります。
1. 財源確保・運営の安定化
公共施設の維持・管理には、建物の修繕、清掃、人件費、光熱費など日々のコストがかかります。自治体予算だけで賄うには限界もある中、ネーミングライツ料を新たな収入源の一つとすることで、施設運営の「下支え」にしようという意図があります。
特に、観覧料や使用料収入だけでは賄いきれない部分を補填できれば、利用者サービスの向上(展示改修、案内設備改善、イベント充実など)にもつながります。
2. 地域と企業の関係づくり・地域活性化
ネーミングライツを通じて企業が公共施設に名前を付けることは、地域住民に対して「自社が地域を支えている」「地元に関わっている」という姿勢を示すことになります。これにより企業ブランドのイメージアップや信頼獲得に役立ちます。
また、施設を通じた地域イベント、展示、ワークショップなどの実施と連動すれば、「企業 × 地域 × 文化・教育・観光」の三層の掛け算的な効果を生む可能性があります。
3. 施設の魅力向上・利用促進
名称変更によるブランディングやPR効果は大きいです。愛称が生まれ、親しみやすさが出れば、施設そのものへの認知が高まり、人が訪れやすくなります。「○○ミュージアム」「△△パーク」といった名称が定着すれば、案内・地図への表記も変わり、マスメディアやSNSでの露出も広がります。
さらに、利用者にとっては「命名された企業が応援してくれている施設」という感覚が生まれ、施設愛着にもつながります。
他自治体の成功事例 ~津市・富士市を例に~
ニュースサイト「ネーミングライツ協会」では、三重県津市や静岡県富士市のネーミングライツ募集事例が紹介されています。
津市の例(公共施設)
津市では、産業・スポーツセンターや球場、テニスコート、歩道橋など複数施設を対象にネーミングライツ・パートナーを募集。希望額は施設ごとに異なり、歩道橋のような小規模施設は年額18万円という手頃な設定もあります。
このような取り組みによって、企業は地域貢献と広告効果を同時に得られるチャンスを持つわけです。津市側も施設運営費の補助となり、市民サービスの維持・拡充の原資を増やす効果が期待されます。
富士市の例(総合体育館)
富士市は、令和7年4月に供用開始予定の総合体育館を対象として、命名権パートナーを募集。条件として「“ふじ”および“アリーナ”を含む名称」という地域性を意識した条件も盛り込まれています。契約期間は5年、希望金額は年額500万円以上と設定されています。
この事例では、スポーツや文化イベントを誘致する拠点としての施設価値を高めるとともに、企業の名称が試合やコンサート、地域行事のたびに露出することで、広告効果と地域とのつながり双方を狙っています。
ネーミングライツ導入で期待できる“効果”とは?
ネーミングライツを導入すると、次のような効果が期待できます。
| 効果の種類 | 内容・具体例 |
|---|---|
| 広告・知名度アップ | 施設名に企業名が入る → 案内板・看板・案内チラシ・ウェブサイトに表記される → 地元利用者のみならず来訪者にも企業名が目に留まる |
| ブランド・イメージ強化 | 地域貢献する企業という印象が付く → CSR(社会的責任)アピールになる |
| 施設運営支援 | 命名権料が維持管理費などに充てられる → 施設の劣化防止や改修がしやすくなる |
| 利用促進・ファンづくり | 親しみやすい愛称が付くことで来館者の興味を掻き立てる → リピーター増加の可能性 |
| 地域との絆づくり | 「応援している施設」という意識を住民側も持てる → 地域愛着が育ち、施設を大事に使おうという意識も生まれる |
これらは、ネーミングライツが単なる広告料収入以上の価値を持つ理由でもあります。
注意すべきポイント・課題
もちろん、ネーミングライツ導入には慎重さも必要です。以下の点も押さえておきたいでしょう。
- 愛称と企業名の調和性
あまりに無理やりな名前(例:施設の性格からかけ離れた社名)では、住民や利用者に受け入れられづらいものになります。愛称は親しみやすく、施設のイメージと合ったものが望ましいです。 - 契約期間と更新条件
長期契約が安定には有効ですが、途中の見直しや更新条件を明確にしておかないと、後になってトラブルになりかねません。 - 命名料と見合う価値
投資対効果をきちんと見極める必要があります。施設の利用頻度や来訪者数、PR露出の見込みなどを勘案して、料金を設定・交渉すべきです。 - 地域理解・合意形成
地域住民や関係者からの反発が出ないよう、説明会や意見交換を重ねて受け入れられる命名をすることが望ましいです。
まとめ:ネーミングライツ購入を検討してみませんか?
今回の埼玉県の募集は、大規模な博物館や公園を含む10施設という広がりを持つ点で、地域への支援と広報機会を同時に提供するチャレンジといえます。
ネーミングライツは、単なる広告枠の購入ではなく、地域とのつながり、公共性・利用価値の向上、企業のブランド価値向上を含む包括的な仕組みです。他都市での成功例(津市・富士市など)を見ると、地域愛着、企業知名度、施設利用促進など複合的な効果が見て取れます。
もしあなたやあなたの団体が、地域との関わりを強めたい、公共性あるプロジェクトを支えたい、広告手法を多角化したいと考えているなら、ネーミングライツの検討は非常に有力な選択肢になりえます。支援の意味を込めて名前を掲げる。その名が、地域とともに育つ――そんな形を、一度意識してみてはいかがでしょうか。

